建築への扉

武庫川女子大学・・・ライト50シンポジウムに参加して

2010年01月15日(金)

gaikann女子大としては初の建築学科が西宮市の武庫川女子大に開設されたのは2006年のことだった。
学舎となった甲子園会館はライトの愛弟子である遠藤新が設計(1930年竣工)した歴史的建造物である。ライト没後50年を記念したシンポジウムがここで開かれると聞いて駆けつけた。「次世代につなぐライトの建築と思想」と題したシンポジウムの内容は建築学科の報告に譲るとしてhttp://www.mukogawa-u.ac.jp/~arch/event/sympo/sympo091206.html
この日の雑感を記しておきたいと思う。

◆あまりにも理想的な学習環境

甲子園会館とさらに隣接して新築された建物が一学年わずか40名の建築学科の女子学生のために整備された。ホテルから軍の接収をへて大学の所有となり、建築学科の学舎として再生された甲子園会館の魅力は今も尽きることがない。ライトのデザイン、空間構成、内外空間の関係、素材とディテール、意匠の創り込み・・・この空間に身を置くことで得られる幸福と感性の高まりはいかばかりか・・・狭い事務所に落水荘のパネルを飾り、日々現実の厳しさと戦っている私はうらやましさを交えて思う。
平行定規の製図台、パソコン、モニター2台、模型台(カッターマット付)掲示ボード、図面ケースが学生ひとりひとりに用意され、充実したサンプル室、図書室、模型室、隣接のスタジオには構造実験設備まである。建築を学ぶ環境、設計する環境として申し分ない。恵まれすぎている!このような場所で学生達はどう育つのだろうか。現実の設計環境とのギャップに絶えられるのだろうか。いやいや、世界に通用する建築家を育てるにはこのくらいの環境が当然必要なのだ・・・タイムスリップして学生にもどりここで学びたい気分になった人も少なくないだろう。

◆岡崎先生

建築学科の主任教授である岡崎先生は京大時代の恩師である。会場でお目にかかって短い挨拶を交わし、私は研究生時代のことを想い出していた。その頃、アトリエでは京都市営地下鉄の基本計画が行われていた。磁場の法則を利用した避難行動のシュミレーション、1/50の地下コンコースの模型とファイバースコープを用いた動画による検証。トレペを重ねながら最終案を選び出す手法を教わり、連日トレペでスケッチしスタディした。
先生は日曜日の夕方のアトリエに、息子さん2人を連れて、自転車でよく様子を見に来られた。進捗具合を一通り確認して帰られるまでの間、私は幼い息子さんの相手をしたものだ。2人は模型材料の粘土を用意すると、いつも動物をつくり柵で囲って遊んでいた。あきもせずに夢中で粘土いじりをしているのには感心・・・子どもの集中力は大したものだ!

久しぶりにお会いしてこの素晴らしい教育環境に賛辞を送ると「思いが強すぎてね」とテレ笑いされた岡崎先生。設計教育環境のイメージはその頃から温められていたように思われ、あらためて建築教育への熱い思いを感じた。
ぜひ、ここから素晴らしい設計者を世に送り出してください!

◆原点回帰

翻って我が事務所の現状はどうか?スペースクリエーションという社名は「空間創造」と「創造空間」の両方の意味を有す。設計者としてよりよき空間を創造することと、そのような仕事をするに相応しい創造空間としての理想的な環境を創りあげること・・・会社を設立した23年前の情熱が甦ってきた。

ライト50シンポジウムに参加し、岡崎先生にお会いして、懐かしい想いに浸ると同時に、取組むべきテーマのヒントを教えられた一日であった。

2010.1.12 山本 俊輔