建築への扉

若き日の想い出と巡り会わせ(加古川大堰管理棟)

2026年03月26日(木)


今回、加古川大堰管理棟耐震詳細設計業務を国土交通省近畿地方整備局姫路河川国道事務所から受注することができた。
この仕事は46年前の昭和55年、類設計室に勤務していた25歳の時に設計を担当した想い出深い建物の耐震改修設計である。
業務が公告された時から、この不思議なめぐり合せに「ぜひやりたい」と密かに思いプロポーザルに参加、技術提案書を提出した。
設計を始めてから50年、加古川大堰が完成してから45年、スペースクリエーションを設立してから40年を迎えようとする今、
このような機会に出会えたことに改めて感無量である。

加古川大堰は加古川下流域の水問題解決の方策として建設され,管理棟は遠隔制御を行う操作・通信機能、ゲートのメンテナンスのための予備ゲートを格納する機能を備えた建物として管理橋を中心軸に大堰に向け配置された建物である。管理棟と予備ゲート倉庫の2棟を1棟にまとめ、シンプルで存在感のある提案が認められ、具体的な設計に進むことになった。大堰の機能から100年に耐える建物として設計することが求められた管理棟は、制定されたばかりの新耐震基準に沿って設計され、展示スペースや研修室も計画に盛り込まれ、災害時を含め24時間365日稼働できる電力供給や自家発電機を備えた設備室が設けらた。

庁舎の難易度から当時の近畿地方建設局営繕部(当時)が発注元となり、担当者との打合せが始まった。営繕部の担当者は長谷太一郎さんというベテランの設計官だった。

プランは、管理ゾーンと予備ゲート倉庫ゾーンをつなぐピロティとエントランスを一棟でまとめ、雁行するプランをコンクリート打放仕上げの格子天井の庇で南北両面がうまくつながるようにした。基本構想はすんなりと了解が得られた。特に、河川内にある建物であり100年持たせるための外装材としての外壁タイル、アルミサッシュ、コールテン鋼のカーテンウオール、エントランス内の折り返し階段については、色々と指摘やアドバイスを頂くことができ、若かりし自分にとって設計の基本を教えていただいた想い出でいっぱいである。外壁は昔の水門や水道橋のイメージから二丁掛タイルをウマ張りとしたが、タイルの焼き方から作れる役物の寸法などを教えて頂き、タイルの割り付方を窓廻りや出隅などきめ細かく指導され、綿業会館などのタイルの張り方を勉強しながら設計した。タイルの色合い等は、最初は土っぽい色合いを提案していたが、緑や河川の風景に調和するレンガ色に決まった。アルミサッシュの割付は、捜査室からの視界に留意したシンプルな割付と窓が内側から拭ける開閉形式などを指導された。エントランスのカーテンウオールは、耐久性や南部鉄の肌合いのように素朴なテスクチャ~の耐候性鋼を使用することに対するアドバイスを頂いた。エントランスの折り返し階段のバランスについては、村野藤吾さんの階段を例にとり和服を着た胸元の襟もとを重ね合わせた時のバランスを参考にするとよい等、きめ細かくアドバイスを頂いた。屋上の設備スクリーンは、折版を用いたローコストな材料で陰影のある納まりをアドバイスされた。時には優しく、時には怒鳴り声で、様々な事を教えていただき、新米設計者の私にとって悪戦苦闘しながらも充実した楽しい毎日であったことを今でも懐かしく想い出すのである。

《コンクリート打放仕上げの格子天井》

《コールテン鋼のカーテンウオール》

設計もようやく終わり施工者も決まった段階で、常駐工事監理の話になった。ちょうど、一級建築士の資格も取得したばかりだった私は、実家(稲美町)の近くだったこともあり自ら志願し初めて監理業務を担当することになった。自ら設計した建物をを1年余りかけて常駐監理できるという、またとない機会が訪れた。

図面と仕様書の熟読から現場の施工状況の確認など監理業務のイロハを施工者である鹿島建設の竹下工事所長から教わり、週に一度現場に来られる近畿地方建設局神戸営繕事務所の田中さんからは書類の作成方法、現場確認や検査について事細かに指導を受けることができた。はじめてのことばかりで緊張の連続だったが、自然の中で仕事ができ、時々現場の方々と気分転換に加古川の流れの中で泳ぐ魚取りしたのも良い想い出である。
《加古川大堰全景》

出来上がった建物は、外構が未整備ではあったが、大堰と一体になった存在感のある風景に、我ながらほっとしたことを想い出す。
《竣工当時の管理棟》

設計を指導していただいた長谷さん、工事監理を指導していただいた田中さんは、私にとって3番目の恩師である。

独立後も気にかけていただき、時々ふらっと事務所にこらっれては辛口のアドバイスをくださった。またスペースクリエーション初の官庁業務となった「淡路青年の家」でのご縁もあった。営繕部での打合せは深夜まで続くのが常でそれも懐かしい思い出である。

《管理強を中心軸に大堰に向け配置された管理棟 現在》

今回改修設計をするにあたり、若い所員に私が同じような年頃に悪戦苦闘した当時の想い出話をしながら、これから設計業務を通じて出会うであろう人々とのご縁を大切に、チャレンジし、成長し、充実した人生を歩んで欲しいと願っている。