PICKUP 医療・福祉施設
患者さんとご家族から大好評の個室的3床室
有床診療所西村医院 様
有床診療所西村医院様は、JR加古川駅から東に約2km、のどかな田園地域にあります。「住み慣れた環境における介護福祉・看護・リハビリこそ、最も信頼のおける包括的な地域医療」という理念のもと、地域密着型医療、在宅医療に取り組んできた医療法人です。
超高齢社会における在宅医療の推進には、自宅を中心とした生活の場における患者さんとその介護者(ご家族)の生活の質の改善、そして、社会的負担の軽減という好循環を実現することが必要です。また、これまで一部の医師や看護師の献身的ともいえる働きに支えられてきた在宅医療を、チームで支える体制に変革することも重要です。
緊急時の入院が可能で緩和ケアを提供できる有床診療所を整備し、地域医療のネットワークを持続可能な体制とすること、在宅医療を目指す若い医療従事者を育成すること、そして「最期まで自分らしく」という患者さんの願いに応えることが、自らの責務であると西村院長は考えておられました。
私達はその思いを共有し、院長、看護師長、事務長、スタッフの方々との綿密な打合せのもとに設計を進めました。

地域医療の拠点施設に相応しい「機能・コスト・デザイン」

病棟の全周バルコニー、深い庇、水平ルーバーなどのパッシブデザインを取り入れることにより環境負荷の低減と共に居住性の向上を実現する計画としました。
診療所のホスピタリティーを表現する白い外壁は親水コーティングが施された既製品のサイディングを採用しコストを抑えるとともに、シンプルなデザインの中に「清潔感と信頼感と親しみ」を表現しました。

外観パースによるイメージ比較A
外観パースによるイメージ比較B
深い庇、水平ルーバーなどの
パッシブデザインを取り入れた実際の外観

緩和ケア病棟に相応しい「心遣い&プライバシーの確保」

2階の病棟フロアは、3タイプの個室と個室的3床室とし、全てのベッドサイドが専用の窓からバルコニーへと繋がっています。
医療コンソールの無い病室、デイルーム、談話室、せせらぎのある庭園など家庭的で穏やかな空間としています。

付添い用のソファベッドがある個室
全てのベッドサイドがバルコニーに繋がる個室的3床室
個室的3床室の図面
図書&談話コーナー
ゆったりくつろげるデイルーム
2階バルコニーから見える東側庭園

「患者さんにもスタッフにも優しい」選ばれる診療所

1階外来フロアは、患者動線を緑豊かな外周部に配置してアメニティ向上を図り、スタッフ動線を中央部に集約する効率的な計画としました。
医療事務室や休憩室などスタッフゾーンの充実を図り、複数の医師による連携や働きやすい医療環境の実現を目指しました。
スタッフの笑顔が患者さんの幸せに繋がることを願いながら。

エントランスホールのイメージ比較A
エントランスホールのイメージ比較B
木目調を取り入れて清潔感と落ち着きのある
実際のエントランスホール
STORY

患者さんとご家族から大好評の個室的3床室

「ずっとご自宅で頑張っていたお年寄りが倒れたら、家族はびっくりして救急車を呼ぶでしょ。それで病院に運ばれるともう家には帰って来られないの。たくさんの管に繋がれて病院のベッドで最期を迎えるのはご本人やご家族はもちろん、私達にとってもさみしいものですよ、ねぇ先生」
大病院で看護師長として働き、その後、地域医療・在宅医療に携わって多くの患者さんを支えてこられたベテラン看護師Tさんが言いました。
その言葉に院長は大きく頷きました。
 
「最期まで住み慣れた自宅で」とはいえ、支える家族の不安や負担を考えると現実はそう甘くはありません。
いざという時の頼れる場所として入院施設を作りたい!
西村医院の熱いチャレンジが動き始めました。

まず、1階を外来診療所と厨房、2階を病棟とする基本計画がスタートしました。

1階外来は、医師を中心としたスタッフの働きやすさと連携が患者さんの笑顔につながるとの考えからスタッフエリアを中央部に集約して合理的な動線とし、医療事務室や休憩室を設けてスタッフゾーンを充実させる計画としました。

また、「美味しい食事は元気の源」との考えから院内調理できるよう厨房を設けました。この規模の診療所では珍しいです。

患者動線は緑豊かな外周部に沿ったL型とし、物療(リハビリ)室と相談室は庭を眺める明るいスペースに計画しました。
地域の方々から寄せられた絵画や陶芸作品などを随所に展示して楽しめるようにしています。

診察室
院内調理できるように設けた厨房
庭に面した明るい物療(リハビリ)室
2階病棟は、理想に基づく細かな要望があがってきました。
 
  • 地域の人々をできるだけ多く受け入れられるようにすること
  • ベッド数は有床診療所に許可されている最大数の19床
  • 病室は全て個室とし付添い用のソファベットが置ける広さを確保すること
  • 家庭的な温かい雰囲気の中でくつろげるリビングルームや図書コーナー
  • バルコニーで花を育てたり車いすで散歩できる庭があるといいなぁ
  • 座位が取れない人でも入浴できる設備
  • スタッフが動きやすく機能的な動線で
家族室
緑いっぱいの庭園
デイルームから見たスタッフステーション
そして差額ベッドの問題が表面化しました。
全室個室で差額ベッド料が必要になると経済的な事情で入院できない人が出てくるかもしれません。地域の人々を広く受け入れるためには大部屋も必要ではないだろうか?けれども、いわゆる従来の大部屋を作ってしまったら一般病院と変わらなくなってしまいます。
 
私達はコーナー部を利用して、各ベッドにバルコニーに出る窓があり、ベッド間を隔てる小さな仕切りがある限りなく個室に近い3床室を考えて提案しました。
この個室的3床室はカーテンを閉めれば大きな窓がある個室的空間になり、カーテンを空ければ同室の人と会話ができる広々とした大部屋空間になります。
先日診療所を訪ねると、この3床室が想像以上に大好評だということでした。
標準仕様では解決できない難問を与えられると設計者の心は燃えます。
最適解に辿り着くまで諦めないのが私達の流儀です。
差額ベッド問題を解消する個室的3床室
病棟の全周バルコニー
外観北東面・夕景