建築への扉

平安南画壇展・・・京都市美術館にて

2008年06月25日(水)

200625suibokuga久しぶりに京都へ行った。松田君と二人で、来月技術提案する予定の敷地周辺を散策することが目的だが、もう一つの目的は、M氏の水墨画を見に行くことであった。
M氏との出会いは遠く学生時代に遡る。当時私は坂倉建築研究所に入りたいと考えていた。恩師田中先生を通じて、M氏に出会い、M氏を通じて西澤文隆さんを紹介していただいた。結局、坂倉事務所に入所することにはならなかったのだが、その後今日に至るまで、いろいろな設計のお手伝いを担当させていただきながら、多くのことを教わった。

M氏は奈良市西登美ヶ丘在住。先日思いがけず手紙が届いた。
「前略、冬の日、西登美ヶ丘で珍しくRC造の建物が目に入り、前を通るたびに期待しながら横目で見ていたら、あれよあれよと思っている内に完成して“Mキッズクリニック”が完成しました。それがスペースクリエーションの作品と知り、さすが!と思いました。
全体に上品で、瀟洒な建物で西登美ヶ丘の街並みの中でピンポイントで輝いています。特に待合の湾曲した壁と前庭の駐車場を取り囲むスロープのおおらかなカーブが一連の流れとなっていて、デザインの確かさを実感させてくれます。山本君の“してやったり・・・”という例の遠慮がちな顔がチラついてきます。少し気になる点を意地悪ジーさん的に述べますと・・・中略・・・(しばらくありがたい指摘事項が続く)・・・退職後、時々大阪芸大の設計実習の非常勤講師として出かける以外、ほとんど設計活動から遠ざかり、晴耕雨読の毎日を送っている小生にとって“Mキッズクリニック”は忘れかけていたものを想い出させてくれるカンフル注射でした・・・後略・・・」

いつまでも気にかけてくださり、こうして手紙が届く。暖かく見守られていることに改めて感謝しながら、同封された案内状を手に取った。

「晴れた日には貸し農園で野菜を作り、雨の日には水墨画の筆をとっています。」控えめな誘いの文面にかえって惹かれる思いがして、久しぶりの美術館行きとなった。

さて、M氏の作品。画題は「彦根城時雨」精密なタッチで描かれた無彩色の世界。時代を感じる風景の中、急ぐ人はスーツ姿で、その対比に時間の流れが感じられ、傾いた傘の角度に急ぎ足のその人の動きと緊張感が見える。「何があったんだろう」と絵の向こう側の情景を想像してしまう。
無彩色でありながら奥深い表現手法に思いを極めていくことのするどさに、M氏の設計されていた当時の姿が重なった。
我々は今、溢れる色と多種多様の材料や情報に日々振り回されているような気がしてならないが、絵を見ながら、真の美、控えめな美しさについてまたもや教えられたと感じたひとときだった。