建築への扉

増田先生との想い出…消しゴムで描く

2007年11月02日(金)

ある日、私は階段のスケッチをしていた。曲線の形をスタディしていたのだが、なかなか決められず、その部分は鉛筆と消しゴムで真っ黒になり、紙もモロモロしてきて、自分でも嫌になり、行き詰まっていた。その時だった。先生がそっと寄って来られて肩越しにこう言われた。「俊輔、図面というのは鉛筆で描くんじゃない。消しゴムで描くんだ。」先生にそう言われても、さらに途方に暮れ、手が進まなくなって「消しゴムで描く」という言葉だけがぐるぐると頭の中を駆け巡った。帰り際、アトリエマスターが声を掛けてくれた。「検討を重ねて、真っ黒になったスケッチの線を、自分で消し取って、最後に残った線が君の案になる。」彼はそう言って少し微笑むと、自分もかつて増田先生から同じ事を言われたと言いかけて飲み込んだ。

トレペと違って、紙を替えて書くことのできないケント紙のスケッチには相当の集中力が要求される。一枚の紙の上に重ねられた集中力の結果としてのドロドロの図面には、気迫のようなものが感じられる。ものごとを見据え、見定め、見極めていくその術を、先生はケント紙のスタディを通じて教えてくださったのである。

今、T定規は平行定規やドラフターに置き換わり、さらにCADへと変わっていったが、一つ一つを決定していくための集中力の積み重ねこそが、創るものにとって最も大切なことに変わりはない。

すっかり黄ばんだドロドロのスケッチを眺めながら、常に瞬時に最適解を出し続けていけるよう、集中力を研ぎ澄まさなければ・・・と思うのだった。