2016年12月01日(木)
30年の歴史を振り返りながら、
今、一緒にいることの、めぐり合わせを大切にし、
これからの1年、5年、10年と
スペースクリエーションと共に進化していけるよう
異国の歴史、伝統、新しい文化に触れながら
大いにリフレッシュし、新しいスタートを切りましょう。
「研修旅行パンフレットより」
幹事の大西君と中谷さんがきめ細かく準備してくれたお蔭で、記念に残る研修旅行ができた。今回は2泊3日の日程で、初日は台北市内見学、2日目は台中の建築見学、そして最終日は台北市内の自由行動、とても充実した内容で、それぞれにリフレッシュできたと思う。
2日目の台中建築見学では、新幹線で1時間ほど移動し、午前中に亜洲大学の亜洲現代美術館、午後は台中国家歌劇院を見学した。
まず訪れた安藤忠雄さんの亜洲現代美術館は、正三角形をモチーフに立体的にずらしながら重ねられたプランの美術館である。どのような条件で正三角形のモチーフが考えられたのか興味があった。
アプローチは、亜洲大学本館前の円形のロータリーを中心に、対する北側キャンパスに配置されていた。ちょうど本館玄関前を中心に60°斜め方向に美術館の軸線を取り、近代様式的な本館と向かい合うことなく、視覚に入り正面が見えるようになっていた。三角形の平面は、ファサードの両端にも鋭くシャープなエッジとして特徴づけられている。
館内は、正三角形を三層にずらしながら中央に展示室等、そして外周部はオープンギャラリーとして計画されており、らせん状に回遊しながらの動線は、キャンパスを垣間見ながら鑑賞できるように考えられていた。
安藤さんの建物は、いつも立地条件をうまく読み解き、明快で大胆な空間構成の建物を、コンクリート打放し仕上げで様々の立体的な空間のボリュームで創られている。
今回の正三角形のモチーフが、どのようにして考え出されたものか興味があったが、訪れてみて、自然に感じられ、周りの建物と調和しているように思った。これからの大学はどうあるべきか、そして大学内の美術館としてどうあるべきかしっかり検討され、「つくるべきは新しい時代を創る学びの場に相応しい、普遍的な空間性を有する美術館だ。そこで考えたのが、正三角形という初源的な幾何学をモチーフとする建築である・・・・」と書かれたとおり、構造から細部に至るまで徹底して正三角形のデザインが追及されていた。しっかりと考え抜かれたことにより、明快でダイナミックな美術館になったと思う。
また、異国の台湾で施工されたコンクリート打放し仕上げもきれいに出来ており、竹中工務店で施工され、施工技術が台湾の技術レベルの向上に役立つようにと、関係者の大変な努力の結果と感心した。日本との繋がりや開かれた情報発信の拠点となることを期待したい。
午後は、いよいよ伊東豊雄さんの台中国家歌劇院を見学した。台中市街の中心部、最近開発された高級マンションに囲まれ大通りの正面にゆったりとした外部空間の中に矩形の建物として配置されていた。廻りの豪華な建築群の中に、フラットな矩形という形態でありながら断面の局面ガラスがとても対象的で圧倒された。シンプルで白い洞窟のような切断面のカーテンウオールとグレー系の質素な外壁が、内部空間がどうなっているのか、わくわくとしながら吸い込まれるようにエントランスに入った。
エントランスホールは、まさに洞窟のようで、山口の秋芳洞などを思い浮かべた。直線はどこにもなく、外周部の開口部にガラス面が見えるだけである。
残念ながら劇場内に入ることができなかったが、まず伊東豊雄展が開催されていた5階に上がり、プロジェクションマッピングによるプレゼンテーションを見ることになった。このホールの周囲の不整形な壁面をうまく利用し、展示された模型と共に設計コンセプトが表現されていた。その後、屋上庭園に上がり、周囲の迫る街並みと、屋上にも飛び出した内部空間の切断面を眺めながら、気持ちを落ち着かせ各階を降りながら見学した。ホワイエ等は、すべて白い洞窟状の空間に対比するように赤や青、そして布地を用いた壁面で構成されていた。壁面の足元は、床に消えていくように自然に処理されていた。断面図を見ると三次元曲面RCシェル構造が繋がっている中に、各階の床が水面のように構成されている。この設計や施工は、大変だっただろうと思う反面、どのように発想し設計されたものか、先の安藤さんの亜洲現代美術館と対比するように思え興味深く、仙台メディアテークに続きさらに複雑な構成は、建築に対する認識が変わるように思えた。
この建物は、3つの劇場を主とし、オフィスや店舗が入る複合建物である。日本で劇場の設計に際しては、客席数や残響時間、遮音性能、興行する内容に伴う利便性や稼働率等ばかりがデジタル化された数字で重要視されている。ホールや劇場がドラマチックで魅力的な空間であるかが見失われており、いずれも画一的な建物が多いように思う。この常識を破る建物を見て、伊東豊雄さんの頭脳は、どうなっているのか、改めて考えさされた。
劇場は、客席や舞台の機能や構成を考えるとき、機能面からどうしても周囲のホワイエの形状や外観が特異なものとなり、デザインしにくく同じような建物になりがちである。この歌劇院のプランや断面図を見ながら、仙台の海草のイメージに対し、まさに人間の臓器をカットしたようなイメージに思われた。
安藤さんの周辺環境や敷地条件をボリューム感のある建物として設計されているのに対し、自然をモチーフにコンピューターを駆使して設計された手法にまたもや感心した。
この2つの建物を見学して、これらの建物が出来上がるまでの様々な過程のすごさに、改めて考えさされるものがある。そして、イメージを相手に説明し理解してもらう手法についてどのようになされているのか、さらに考えていく必要がある。
クライアントや設計関係者は、その都度変わるが、常に相手が何を求めているのか寄り添いながら汲み取り、考え抜いた提案をうまく伝えられるかが大事である。まさに対応力やコミュニケーション力が問われることになる。設計の機会ごとにプレゼンテーションテクニックが問われており、単に図面、模型やCGなどを駆使するだけでなく、会話やクライアントの想いを受け止める包容力のようなものも必要である。
そして、一番大事なものは、着眼力というか設計者自身がどのように考えているか、見えてくるものが必要である。それは、たった一枚のスケッチでも、明快なコンセプトでもよい。我々の使命は、それを見抜いていかなければならないところにある。
いかなるプレゼンテーションにおいても、考え方、イメージ、技術の伝達が問われている。これらをうまく伝えることが極めて重要で、どのような考え方に基づき、どのようなイメージで設計するのか、そしてそれがどのような技術で実現するのか、わかりやすく伝える必要がある。これらのことが互いに繋がり補完し合い、新たな力となり、建築を創りあげるエネルギーとなっていく。
我々は、日々の設計を通じ、自らの設計手法の在り方を見つめなおし、自らを鍛え絶えざる情熱でもって、さらに研鑚していく必要がある。