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私の一冊

2026年09月02日(水)

私が選ぶ一冊は、池井戸潤著『下町ロケット』です。

父親の急逝をきっかけに、建築設計とはまったく異なる事業を引き継ぎ、日々次々と判断を迫られ、その責任を負う立場に苦悶していた頃、先輩経営者の勧めもあって、本をよく読むようになりました。

稲盛和夫さんや北尾吉孝さんの著書をはじめ、その影響から『論語』などの古典にも手を広げ、とにかく気になった本を読み漁っていました。

その先輩経営者から教わった読書法の一つに、「積読(つんどく)」があります。文字どおり「積んでおく」のですが、「とにかくアンテナに引っかかった本は買って、机の上に積んでおけ」という教えです。

そんな調子で、空き時間があれば本を読む生活を数年続けていると、いつしか読書そのものが「やらなくてはいけないこと」になっていました。

「今日も本を読まなくてはいけない」。

そんな義務感で読むものだから、読むスピードも遅いし、内容もなかなか頭に入ってこない。それでも読まなければいけない――そんな悪循環に陥っていました。

そんな時に出会ったのが、『下町ロケット』です。

当時、本屋に立ち寄ると直木賞受賞作として大きく取り上げられていて、とても目立っていました。直木賞のこともよく知らなかった私は、「難しい文学系の本なのかな」と思いながら手に取りました。

ところが、帯や店頭のPOPを見ると、「中小企業がロケット開発に挑む」といった内容が書かれている。

「ああ、ビジネス系の本ね」

と、完全に勘違いして買いました。

読み始めると、すぐにその間違いに気づきます。

ところが、これが面白い。

ページをめくる手が止まらず、ものすごい勢いで一気に読んでしまいました。

こんなに本にのめり込む感覚は久しぶりで、読み終えた時に、

「ああ、やっぱり読書っていいな」

と思ったことを今でも覚えています。

それからは直木賞の受賞作をはじめ、本屋大賞やミステリーの話題作なども、片っ端からチェックするようになりました。当時は、池井戸潤以外にも東野圭吾、伊坂幸太郎、海堂尊など、今も第一線で活躍する作家たちの作品が次々と話題になっていた時期でもあり、私の読書熱は再び一気に高まりました。

その勢いで、私にとっては少しハードルの高いドラッカーの著書や『ザ・ゴール』、さらには『罪と罰』まで読破できました。

以来、ジャンルを問わず、気になる本はまず「積読」。

ただし以前とは違います。

「読まなくてはいけない」から読むのではなく、「次はこれを読みたい」と思える本を、いつも身近に積んでおく。

『下町ロケット』は、そんなふうに私の読書を「義務」から、もう一度「楽しみ」に戻してくれた一冊です。

私の一冊 第2回

2026年08月09日(日)

色々探してみて、私の1冊が3冊になってしまいました。

この3冊は、大学3年の時に発売されたa+uの増刊号です。1冊4800円でした。

数少ないお金を握りしめて買ったのを覚えています。

それまでは、安藤忠雄さん、髙松伸さんの本は持っていましたが、

はじめて海外の建築家にすごく興味をもって買った作品集でした。

ノーマン・フォスター、リチャード・ロジャース、レンゾ・ピアノの特集号です。

三人三様の機械美学、ハイテクノロジィの建築の視覚的な魅力に魅かれたのを覚えています。

ノーマン・フォスターの香港上海銀行、リチャード・ドジャース、レンゾ・ピアノの

ポンピドゥ・センター、レンゾ・ピアノの関西国際空港などの計画、竣工写真、

図面などを見てすごく新鮮に自分の中に入ってきたのを覚えています。

そして、この特集号を欲しくなり、発売日には書店の開店時間を待って買いに行き、

それを常に見て、自分の卒業設計、修士設計に影響を受けていったのを思い出します。

その後、実際に見た香港上海銀行の幾何学的な美しさ、関西国際空港の構造の優美な

曲線の美しさは、今でも目に残っています。

まだ見れていない、ポンビドゥ・センターは、いつか見に行きたいと思います。

今でも、この三冊は、年に何度も開いて見ています。

その時の自分の想いを考えたり、新しい気付きを常に感じさせる3冊です。

私の一冊 第1回

2026年06月27日(土)

この企画では、これまでに影響を受けた本や最近読んだお勧めの本などを、スタッフが順番に紹介していきます。
初回となる今回は、私、代表の山中が担当します。

 

『野生の思考』 クロード・レヴィ=ストロース

大学時代にこの本に出会った当時、「ものごとの本質は個々の中にあるのではなく、それらを取り巻く関係性(構造・ルール)にある」という構造主義の考え方に夢中になったものでした。
そしてこのことは、今日に至るまで、多様性を志向する私自身の価値観に大きく影響しているように感じます。

本書はそんな構造主義が世界中を席捲し、これまで正しい考えられてきたことが相対化されるきっかけとなった代表著作です。

あれから30年、改めて本書を読み返すと、今度は「野生の思考」が持つものづくりへの眼差しに惹かれます。
身近なものに意識を研ぎ澄ませ、与えられた条件を活かしながら、新しい価値を見出していく。
未開社会の人々による「ブリコラージュ」と呼ばれるそうした営みは、今日、建築を考える上での大切な姿勢にも通じるように感じます。

デジタル技術の進歩により、ものごとの把握や言語化が容易になった時代だからこそ、
感覚や経験に基づき、世界の豊かなつながりに目を向けることの大切さを改めて教えてくれる一冊です。